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2006年12月06日

高級泡盛の秘密に迫る (価格決定式編)

10月以降、高価な泡盛が発売されるというニュースが、沖縄の新聞紙上を賑わした。

10月26日、沖縄タイムス朝刊(抜粋)
「1887年創業の瑞泉酒造(佐久本武社長)は創業120周年を記念して、1972-76年にかけて仕込んだ「瑞泉・秘蔵酒・30年貯蔵古酒」を11月1日から12本限定で全国発売する。600ミリリットル入りバカラ製ガラスボトル入りでアルコール度数は33度。販売価格は税込み52万5000円となる。」

11月10日、琉球新報朝刊(抜粋)
山川酒造(本部町、山川宗克社長)は35年古酒「かねやま 1971」(720ミリリットル・アルコール度数40度)を11月から100本限定で発売した。価格は消費税込みで15万円。「県内市販の泡盛の中では最も古い古酒」とPRしている。」

高級泡盛の秘密に迫る (価格決定式編)特に、瑞泉酒造の秘蔵酒は限定12本と、めったなことではお目にかかれない。ところが、最近、とある会社の応接室で1本52万円の超高級泡盛に拝謁する機会を得た。左がその証拠写真である。一般庶民には器の中身を味わう機会は永久に訪れないと思うが、バカラのボトルとグラス、琉球漆器の箱は、それだけで十分に贅沢な雰囲気を醸し出していた。

超高級泡盛に思いを馳せつつ、新聞記事を改めて眺めると、瑞泉酒造の30年物の秘蔵酒と山川酒造の35年古酒「やまかね 1971」の価格に随分と差があることに気づく。一般には、酒屋では同じ度数・容量・年数であれば、山川酒造の古酒(くーす)の価格が瑞泉酒造より高い。この法則がこの超高級泡盛にも当てはまるならば、秘蔵酒の価値の大部分はバカラのボトルとグラス、琉球漆器から構成されていると推測できる。しかし、真実は瑞泉酒造に確認しなければ分からないし、メーカーが真実を明かすとはとても思えない。

市場では20年以上の古酒はほとんど存在しない。まして30年超に至っては皆無だ。それゆえに、この高級泡盛は存在感を示しているのだが、果たしてウン拾万円の価格が高いのか安いのか、はたまた妥当なのかについては、誰も判断する基準を持ち合わせていない。しかし、それではあまりにも居心地が悪いというものだ。そこで、マゴナ研究室では得意の勝手分析により、超高級泡盛の価格の決定理論について考察を試みた。

分析にあたっては、販売価格の調査が第一関門となる。泡盛は同一銘柄であっても、販売価格は販売店ごとにバラツキがある。おまけに、沖縄振興開発特別措置法の酒税軽減措置により、沖縄県内での販売価格と県外での販売価格は異なる。当然に、泡盛の銘柄ごとの平均販売価格の統計は存在しない。こうした八方ふさがりの中で役立つのがネットによるデータ収集である。公的機関の統計に比べ精度は落ちるが、工夫次第ではお役所ですら把握できないデータの収集が可能であり、個人レベルのおおまかな分析には十分使える。

高級泡盛の秘密に迫る (価格決定式編)今回は、将来実施するかもしれない詳細分析にも備え、通販ショップ「泡盛 島めぐり」のホームページに掲載されている100%古酒65銘柄について、酒造所、銘柄名、容量、度数、年数、販売価格をEXCELシートに入力した。作業時間は1.5時間にも及んだため、ちゃぶ台を2台のノートPCで占領し黙々と作業を続ける父親に対し、家族から非難の声が上がったのは言うまでもない。(笑)
けなげな努力の結果は左表のとおりである。

手始めに、35年古酒「やまかね 1971」を発売した山川酒造のデータから、容量720ml、度数43度の条件を満たす銘柄を貯蔵年数別に並べてみる。

(銘柄)   (年数)  (税込み価格)
珊瑚礁    5年   3,120円
珊瑚礁   10年   5,000円
かねやま  15年   10,270円
かねやま  20年   19,490円

高級泡盛の秘密に迫る (価格決定式編)これを散布図としてプロットしたのが左の図である。よく眺めると、販売価格は指数関数に従っているように見える。そこで、EXCELのグラフ機能を用いて、指数近似曲線を当てはめる。はじき出された価格決定式は次の通りだ。

販売価格=1580.3×e^(0.1243×貯蔵年数)
決定係数=0.9936

指数近似曲線は、決定係数99%と極めてよく当てはまっており、この価格決定式に貯蔵年数を代入すれば、やまかねの販売価格の理論値が計算できる。果たして、貯蔵年数に35年を代入したところ122,500円が算出された。この値は「やまかね 1971」の販売価格150,000円にかなり近い。今回は限定100本の販売でありディスカウントは見込めないが、「やまかね 1971」が仮に量産されれば、2割引の12万円程度で販売される可能性は十分ありうる。つまり、理論価格との差額約3万円は限定販売のプレミアムと解釈でき、価格決定式の妥当性はかなり高いと判断できる。

続いて、この価格決定式の意味するところを考えてみたい。定数項の1580.3は「やまかね」が新酒として発売された場合の販売価格を表している。ポイントは、計算式のe^(0.1243×貯蔵年数)の部分にある。e(=2.71828)は自然対数の底であり、べき乗部分の(0.1243×貯蔵年数)は、定数項すなわち元本の1,580.3円が12.43%の連続複利で増加することを表している。

連続複利について簡単に説明すると、日常生活で使う複利計算では、毎期(年、月、週、日など)ごとの元利合計額を新しい期の元本として計算するが、連続複利では、この計算期間を1年、半年、1カ月、1日、1秒・・・、と無限に短くして複利金利を算出している。しかし、連続複利の前提となる「極限の概念」は一般にはなじみが薄いので、以下では、計算期間を1年とする複利金利に変換したうえで計算は進める。ちなみに、連続複利12.34%は年率13.24%(小数点3位を四捨五入)の複利金利であり、価格決定式は次の通りに表現される。

[山川酒造の古酒販売価格の理論値]

新酒   1,580.3円
1年古酒 1,580.3円×(1+0.1324)=1,789.5円
2年古酒 1,789.5円×(1+0.1324)=2,026.4円
3年古酒 2,026.4円×(1+0.1324)=2,294.7円
 :
10年古酒 4,838.6円×(1+0.1324)=5,479.2円
20年古酒 16,777.0円×(1+0.1324)=18,998.3円
30年古酒 58,171.8円×(1+0.1324)=65,873.7円
 :
35年古酒 180,320.7円×(1+0.1324)=122.662.4円
 :
40年古酒 201,702.3円×(1+0.1324)=228,407.7円
(注)上記計算値は複利金利を小数点3位で四捨五入しているため、exp()関数による計算値と若干の誤差が生じている。

この価格決定式を用いれば、今後、山川酒造がどんなに古い酒を発売しても、その価格を予測することが可能となる。泡盛メーカーを震撼させる価格決定式の公表は恐らく本邦初であり、活用方法はすべて読者の皆さんに委ねられている。泡盛はビンの入れたままでも熟成するといわれている。プライベートに新酒を貯蔵し、年率13.24%の価格上昇を想像しながらリッチな気分で自家製古酒を味わうもよし。価格決定式をご自身の商売に活用するもよし。割安な泡盛を探し出して、得した気分になるもよし・・・。価格決定式の利用価値は無限に広がると言ってもよい。(笑)

本コラムは、この辺でおしまいとするが、次回は、価格決定式の考え方を瑞泉酒造の「秘蔵酒」52万円也にも適用し、史上最高級の泡盛の秘密に迫りたい。

【閑話休題】
古酒の販売価格が、金融資産の金利計算と同様に、複利計算に従って決定されるというのは実に面白い発見である。酒造メーカーが泡盛を新酒として販売するのか、はたまた一定期間貯蔵したうえで古酒として販売するのかは、ファイナンス理論に基づく投資行動として説明できると思われる。しかし、現時点において、マゴナ研究室がイメージするファイナンス理論を実証するデータの入手方法が思いつかない。いつになるか約束はできないが、十分に調査を進め実証可能となった時点で公表したいと思う。


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