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2008年04月11日

大坂出張と携帯動画の傾く映像 (その2)

大坂出張と携帯動画の傾く映像 (その2)3月9日の記事「大坂出張と携帯動画の傾く映像 (その1)」で、新幹線の車窓から撮影した動画が奇妙に傾いており、しかも車窓から遠くに見える被写体ほど垂直方向からの傾きが小さいことを報告した。左写真(再掲)はその特徴的なシーンを静止画像として切り出しており、電柱や建物の傾き具合でその状況を確認できる。今回のテーマは、前回記事で先送りした、この超常現象(?)の発生メカニズムを明らかにすることである。なお、以下の説明は、前回の記事内容の理解が必須であることをあらかじめお断りしておく。

大坂出張と携帯動画の傾く映像 (その2)すでに説明した通り、デジカメの撮影素子に使われるCMOSは、各画素が光を電荷として蓄積するタイミングと、信号として転送するタイミングが異なっている。左図のようにCMOSが10×7の画素から構成されると仮定すると、各画素は下から上に向かってマス目に付された番号の順番に受けた光を記録していく。この時、撮影者が全く移動せずに地上から垂直に立ち上がる物体を撮影すると、物体はCMOS上に赤い直線として記録され撮影者の視覚とCMOS上の記録は完全に一致する。問題が生じるのは、撮影者が移動するケースである。図2に示されるように撮影者が、画素1コマの記録時間で画素一コマ分右に移動すると、本来、地上に対して垂直に立つ被写体は、CMOS上では右に傾く赤い直線として記録される。

さらに議論を進め、「車窓から遠くに見える被写体ほど垂直方向からの傾きが小さい」という現象を理解するには、「コペルニクス的」発想の転換が有効である。コペルニクス的と言うと大げさに聞こえるが、「革命的」といった意味ではなく、単に「天動説から地動説への転換」の比喩として捉えていただきたい。つまり、今までは被写体は動かずに撮影者が移動するという前提であったが、今後は、撮影者は動かず逆に被写体が動くという前提で考えるのである。(笑)

新幹線の最高速度はおおよそ時速270kmである。現実世界では観察者が時速270kmで移動しつつ地上の物体を観察しているのだが、コペルニクス的発想の転換にしたがえば、観察者は移動せずに被写体が時速270kmで移動していると考
えるのである。この前提のもとで、「携帯動画の傾く映像」が発生する現象の一般化に取り組んでみたところ、以下の結論が得られた。

[一般化で用いる記号の定義]
a[s] :CMOSが映像を記録する時間。いわゆる、シャッタースピード。
b[m/s]:被写体の移動速度。
c[m] :観察者と被写体との距離。
θ[°] :観察者を頂点とする被写体の移動前と移動後の位置が形成する角度。

大坂出張と携帯動画の傾く映像 (その2)図3をご覧いただきたい。CMOSのシャッタースピードをa[s]とすると、b[m/s]で移動する被写体Tは、カメラのシャッターが押されCMOSへの記録が完了する間に、a・b[m]の距離を移動する。撮影者と被写体Tとの距離をc[m]とすると、a[s]の間にCMOSの映像素子への記録が下から上に順々に進むことにより、被写体Tの撮影結果は垂直方向からθ[°]傾くことになる。その関係は数式で次の通り表すことができる。
c[m]・tanθ[°]=a[s]・b[m/s] ・・・・式①

大坂出張と携帯動画の傾く映像 (その2)次にこれまでの宿題であった「車窓から遠くに見える被写体ほど垂直方向からの傾きが小さい」という現象を理解するために、観察者からより遠い位置にある被写体T'を図3に書き込んでみたのが図4だ。被写体T'と観察者の距離をc'[m]とした場合、被写体T'の移動距離は被写体Tの移動距離と変わらずa・b[m]となるが、被写体T'の傾きθ'[°]は、被写体Tの傾きθ[°]より小さくなる。
この関係は次の数式で表すことができる。
c'[m]・tanθ'[°]=a[s]・b[m/s]   ・・・・式②

さらに、式①と式②を解くことで、次の数式が導かれる。
tanθ[°]÷tanθ'[°]=c'[m]÷c[m]  ・・・・式③

この式③は、「観察者が、同じ速度で移動する近くにある被写体と遠くにある被写体を同時に撮影する場合、それぞれの被写体について観察者と被写体の移動前と移動後の位置から形成される角度の正接(タンジェント)に関する比は、それぞれの被写体の観察者からの距離の比に一致する」ことを示している。例えば、θを30°、θ'を15°とすると、tan30°÷tan15°=0.577÷0.268=2.153となる。この2.153の値は、観察者から見て被写体T'は、被写体Tの2.153倍遠くに位置していることを意味する。

さらに、カメラのシャッタースピードと撮影者の移動スピードが分かれば、数式①を活用して、被写体との距離を計測することも可能となる。現時点では、アドエス(Advanced/W-ZERO3[es])のシャッタースピードに関する情報がないことから、先に示した新幹線からの撮影写真を詳細に解析することはできないが、今後シャッタースピードが明らかになれば、新幹線のスピードを270[km/h]と仮定することで、新幹線の線路から被写体までの距離が推定できてしまうのである。これは伊能忠敬もビックリの三角測量の応用といってもよいであろう。(笑)

さて、今回の記事は、出来の悪いCMOSを使った安物デジカメの新たな活用方法を開拓したことで座布団2枚程度の自己評価である。今後、この発見をどのように活用・発展させるかは全て読者の皆さんに委ねられているといっても過言でないのである。


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Posted by magona Laboratory at 00:00 │オーディオ・ビジュアル