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2006年10月01日

甲子園とスピーカーマトリックス

今夏の甲子園の決勝戦は、斉藤(早実)、田中投手(駒大苫小牧)の投げ合いで、久しぶりに興奮を覚える好試合となった。難点は、日程優先で投手の疲労を考えない主催者の対応だけであったと言ってもよい。ところが、せっかくの好試合もお茶の間の観戦環境によっては面白さが全く異なってくる。試合の臨場感、興奮を最大限に引き出すには、大画面映像に加え、効果的な音響設備が欠かせない。

大画面テレビと組み合わせる音響設備は、最近では5.1chサラウンドシステムが一般的になりつつある。しかし、2chアンプは普通に各家庭に普及しているが、サラウンド再生に必須の5.1chアンプは、たいていの場合、新規に購入しなければならない。また、頑固なオーディオマニアは、CD、レコードなどの従来型ステレオサウンド、いわゆるピュアオーディオを5.1chアンプで再生するのにかなり躊躇してしまう。これを回避するために、テレビ視聴とステレオ再生、それぞれに別個の再生装置を準備することも可能だが、この場合は金銭的なダメージに加えスペース上の制約もあり、一般には実現困難だ。

甲子園とスピーカーマトリックスマゴナ研究室では「一組のオーディオ再生装置でサラウンド再生とピュアオーディオ再生を両立する」という難題を解決するために、スピーカーマトリックスという在来技法を活用している。スピーカーマトリックスは、普通の2chアンプと4本のスピーカーを用いて、擬似的なサラウンド再生を実現する手法で、オーディオ評論家の長岡鉄男氏のメインシステムに採用されていたことでも有名である。

仕組みは極めて単純だ。まずスピーカーを2組準備する。一組はフロント用のいわゆるメインスピーカー。もう一組はリアスピーカーとして視聴者の後方に設置し、間接音を再生する役割を担う。リアスピーカーの再生音は低音成分を含まないことから、サイズは小口径で十分である。重要なことは、リアスピーカーの再生レベルが小さいことから、スピーカーの能率がフロントスピーカーと同等またはそれ以上であることだ。能率はカタログに「能率:×dB」と記載されているが、カタログが見あたらない場合には、普通にステレオ接続し、ボリューム一定の条件で、再生音の大きいスピーカーが能率の高いスピーカーである。

甲子園とスピーカーマトリックススピーカーの準備が整ったら、次はアンプとの接続だ。フロントスピーカーは通常通り、スピーカーのプラス端子とアンプのプラス端子、マイナス端子とマイナス端子を接続する。スピーカーマトリックスの特徴は、リアスピーカーの接続方法にある。左右のスピーカーともプラス端子はアンプのプラス端子に接続するが、マイナス端子はアンプに接続せずに左右の端子同士を結線する(図1)。仮に、この接続でリアスピーカーの音量が足りない場合は、右のリアスピーカーのマイナス端子をアンプの左プラス端子に、左のリアスピーカーのマイナス端子をアンプの右プラス端子に接続すれば、音量を稼ぐことができる(図2)。ほかにも接続方法はあるが、マゴナ研究室では(図1)(図2)の方法しか試していないので、ここでのコメントは差し控えたい。

さて、スピーカーマトリックスで何が起こるのか。効果は音場の広がりとして実感できる。例えば、ライブコンサートの再生では、ステージが眼前に広がり臨場感が格段に増す。川のせせらぎや森の小鳥のさえずりなど自然環境音の再生では、後方から小鳥の飛び立つ音が聞こえる。効果のほどは録音方法により大きく異なるが、人の頭を模した録音機材を使うバイノーラル録音や2本マイクのシンプルなステレオ録音ではサラウンド感が顕著となる。また、最近のハリウッド映画の大部分でも十分な効果が期待できる。

スピーカーマトリックスの原理は、次のように理解すると分かりやすい。スピーカーは交流で駆動される。電流のプラスとマイナスが高速に入れ替わり、コーン紙の前後運動が音を生み出す。ところが、スピーカーマトリックスでは、スピーカーの両端子に、アンプの左右のプラス端子が接続される。この時、アンプの左右チャンネルから同じ音がスピーカーの両端子に入力されると、コーン紙を押し出す力と戻す力が相殺されコーン紙は震動しない。したがって、リアスピーカーからは左右の音の差成分のみが出力される。この差成分はサラウンド感を高める間接音や残響成分を多く含んでおり、音場を広げる効果をもたらす。

スピーカーマトリックスによるサラウンド再生は、ローコストで十分な効果が得られることから、5.1chアンプの購入前に一度は試してみる価値がある。しかし弱点もある。サンスイ製のアンプやカーオーディオなどで使われるBTL(Bridged Transformer Less)アンプで(図1)(図2)の接続をすると、アンプが故障すると言われており、注意が必要だ。その他一般のアンプについても100%の保証はないが、マゴナ研究室の10年間にわたる耐久試験の結果では、アンプ、スピーカー共に問題が生じていないことを報告しておく。

ところで、この記事の題名は「甲子園とスピーカマトリックス」である。しかし、甲子園についてはほとんど触れていない。冒頭のパラグラフは8月末に書き起こしたが、その後は仕事が忙しかったり、別の原稿を起こしているうちに、あっという間に1カ月が経過してしまった。その間に高校野球への関心は急速に薄れ、今では、米国帰りのプロゴルファー宮里藍の活躍が最大の関心事である。くしくも、今日は日本女子オープンの最終日だ。昼飯を食ったら、スピーカーの音量を上げ、テレビ観戦にどっぷりと浸ることにしたい。

【閑話休題】
甲子園とスピーカーマトリックススピーカーマトリックスは古典的なオーディオ技術であるが、実際にそれを実践しようとすると、リアスピーカーケーブルの取り回しには結構難渋する。特にリスニングルームが広いほど大変だ。マゴナ研究室では、じゃまになりがちなリアスピーカーケーブルをスッキリ処理するために、リアスピーカー近くに専用の配電盤を設置している。配線イメージは(図3)に示すように、アンプの左右の出力は2本のスピーカーケープルを通して隣の部屋にある配電盤に到達する。左右のリアスピーカーともケーブルは配電盤で集中管理され、接続方法を(図1)または(図2)に切り替える場合でも、アンプの後ろに回り込む必要はない。スピーカーマトリックスに関する情報自体は目新しいものではないが、この配電盤はマゴナ研究室のオリジナルだ。自己評価は「コロンブスの卵」的発想というところで、座布団2枚である(笑)。


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Posted by magona Laboratory at 00:00 │オーディオ・ビジュアル