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2006年03月14日

自転車の最適サドル高を探る

フォールディングバイクDAHON IMPULSE D7を購入して3カ月が経過した。この間、最適なライディングフォーム(乗車姿勢)を求めて、サドル高の調整に取り組んできた。乗り込むにつれサドルは高くなり、歩道の街路樹に頭をぶつける危険があるほどだ。高いサドルほど楽にこげるというのが実感である。しかし、今のサドル高が最適かどうかは良く分からない。

これまでも、最適なサドル高を科学的に求める方法を研究してきたが、なかなか良いアイディアが思いつかない。例えば、サドル高を変えて自転車をこぎ、その疲れ具合を客観的に測定できないか、などと考えたが、医療測定器具を持ち合わせない一般人には実現不可能だ。ここで、考え方を180度変えてみた。効率的に自転車をこいでいる人のライディングフォームを分析すれば、最適なサドル高が演繹的に導けるのではないかと。この方法なら、最適ライディングフォームの写真、物差し、分度器、高校一年生レベルの三画関数の知識だけで証明できる。

自転車の最適サドル高を探る早速、演繹的方法により最適サドル高を調べてみよう。まず、世の中で一番効率的に自転車をこぐ者を探さなければならない。この答えは簡単だ。競輪選手である。競輪選手のライディングフォームは、「しずおか競輪」のホームページから入手する。最近の競輪ホームページの充実度にはビックリだ。全てのレース記録が動画で保存されている。今回は、高画質ビデオ版の「脚見せ」から9選手のライディングフォームを取り込んだ。(写真:クリックで拡大)

ポイントは、ペダルをこぐ足指の付け根のふくらみ部分が、最下点となるシーンを取り込むことである。この時、膝とペダルを結ぶ直線は垂直になる。

写真から分かる通り、ビデオは高い所から撮影されており、画像は縦方向に圧縮されている。圧縮度合いを「タイヤの横径÷縦径」で算出したのが、「タイヤの縦横比」である。写真に赤字で表示しているタイヤの縦横比、膝角度は、写真をプリントアウトし、筆者が物差し、分度器で目測した結果である。この辺の作業は完全にアナログである。計測結果の平均値は、タイヤの縦横比1.23、膝角度141°であった。

自転車の最適サドル高を探る最適サドル高の算出に入る前に、平均的男性の骨格寸法を確認する。ペダルをこぐ動作を解析する観点から、脚の長さは、回転運動の支点となる大腿骨の付け根までの高さと定義する。産業技術総合研究所デジタルヒューマン研究センターのAIST人体寸法データベース1991-92によると、青年男子グループ(平均身長171.4cm)の骨格寸法は、大腿部43.4cm、膝下44.2cmであった。

ここで仮定をひとつ導入しなければならない。写真からも確認できるように、足指のふくらみがペダルの最下点にある状態では、かかとは少し浮いている。つまり、膝からペダルまでの距離は、膝下と一致しない。膝下を超えるつま先部分の高さ(つま先高)を計算する必要がある。しかし、くるぶしから足指のふくらみまでの長さのデータがない。とりあえず、自分の足を参考に12cmと仮定し、足裏と膝下の角度90゚を前提につま先高を計算すると2.9 cmとなった。これに、靴底の厚さ1.1cmを加え、最終的につま先高を4cmと仮定する。靴底の厚さを1.1cmとしたのは、つま先高をちょうど4cmにするためである。ちなみに、自分の足裏をメジャーで計測する姿は、家族からはかなり異様な光景に映るらしい。(笑)
つま先高=12cm×cos76゚=12 cm×0.2419=2.9cm
(46.5cm÷12cm=3.875≒tan76゚)

自転車の最適サドル高を探る以上の標準体型とつま先高を基に競輪選手のサドル高(ペダル上面からサドル上面までの直線距離)を解析してみる。最初に、タイヤの縦横比から膝角度を補正する。写真からの実測で141゜と計測された膝角度を縦横比1.23で補正すると147゚となる。
tan51゚×1.23=1.2349×1.23=1.52≒tan57゚
膝角度=57゚+90゚=147゚

次に、補正された膝角度(=147゚)および大腿部(=43.4cm)、膝下+つま先高(=48.2cm)を基にピタゴラスの定理を用いて、競輪選手のサドル高を求めた結果、87.8cmが導き出された。
a=43.4cm×sin33°=43.4cm×0.5446=23.6cm
b=43.4cm×cos33°=43.4cm×0.8387=36.4cm
サドル高=(a^2+(b+48.2cm)^2)^(1/2)

最後に、いままでシカトしてきた部分について、さらに補正を加えなければならない。回転運動の支点となる大腿骨上部は、サドルより高い位置にある。人体寸法データベースによると、座位転子高(椅子に掛けた場合の椅子上面から転子高までの高さ)は7.1cmだが、自転車ではサドルが臀部に食い込むことから、実際の高さは座位転子高より若干低くなると思われる。臀部への食い込みに関するデータは存在しないので、取りあえず1cmと仮定する。補正後の座位転子高を考慮すると、競輪選手の最適サドル高は81.7cm(87.8cm-6.1cm)と計算される。これは脚の長さ87.6cmの93%である。

最適ライディングフォーム、すなわち最も効率的に自転車をこぐことができるサドル高(ペダル上面からサドル上面までの直線距離)は、脚の長さ(転子高)の93%である。これが綿密なビデオ解析から得た結論だ。ところで、筆者のフォールディング・バイクのサドル高は81cmである。脚の長さは84cmであり、サドル高に対する比率は96%となった。しかし、3%の違いは誤差の範囲内だ。筆者のライディングフォームは競輪選手並みに効率的であることが、演繹的に証明されたと言って良いであろう。少し、乱暴かな?(笑)

【閑話休題】
今回の分析にあたっては、高校時代の数学の教科書(三画関数表)が大活躍した。三画関数はエクセルを使えば簡単に計算できるという意見もあるが、アナログチックに電卓でシコシコ計算するのが筆者には合っている。また、今回の分析作業には、分度器による目測、自分の足裏の実測、適当な仮定など、いい加減な部分が多数含まれるが、結果はおそらく真実から大きく離れていないと考えている。まあ、大体のところが分かれば、実生活ではほとんど困らない。むしろ、「正確さを求めるあまり、一歩も前に進まないことが大問題である」と本気で思う今日この頃である。


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Posted by magona Laboratory at 00:00 │スポーツ