てぃーだブログ › マゴナ研究室 Magona Laboratory › ドリンク › 本邦初、泡盛古酒の統一価格理論

2008年12月21日

本邦初、泡盛古酒の統一価格理論

本邦初、泡盛古酒の統一価格理論物理学の分野においては、ニュートン力学、アインシュタイン(写真左)の相対性理論の登場など幾度ものパラダイムシフトを経て、今日もなお統一理論を求める研究が続けられている。一方、泡盛の経済価値に関する研究分野においては、これまで実のある研究成果は皆無であったといっても過言ではない。泡盛愛飲家は、泡盛の風味、歴史、製法などについて多くのウンチクを語ってきた。ところが、その経済的側面について議論することはほとんどなかったのである。しかし、3年におよぶマゴナ研究室の古酒(くーす)価格の実証分析により、これまで泡盛愛飲家が待望してやまなかった「泡盛古酒価格の統一理論」の解明が近づいている。などと、今回は自画自賛の書き出しからスタートである。(笑) (写真は「A Picture Gallery of Famous Physicists」より転載)

マゴナ研究室では、2006年12月6日2007年2月21日の記事で山川酒造および瑞泉酒造の古酒価格について考察した。その結論は「泡盛古酒価格はおおむね12%の連続複利計算で決定される」であり、次の数式で表される。

泡盛古酒価格=P0×e^(0.12×t)
P0:新酒の販売価格
e:自然対数の底(=2.178)
t:古酒としての貯蔵期間(年)

数式は直感的になじみにくい連続複利計算となっているが、これを比較的理解しやすい離散関数式に変換すると、次の数式で表すことができる。なお、数式の変換および連続複利計算の基本的な考え方は、2006年12月6日の記事で確認願いたい。

泡盛古酒価格=P0×(1+0.13)^t

この泡盛古酒の価格決定式の公表は、筆者の知る限り本邦初であり、座布団三枚程度の自己評価は十分にある。しかし、これで完ぺきとはいえない。価格決定式は2006年12月時点における販売価格と貯蔵年数の関係を表しているにすぎず、たまたま指数関数が当てはまったという可能性も否定できない。個人的には、泡盛古酒の価格決定式が指数関数に近似するという考え方はおおむね正しいと考えるが、それも仮説の域を超えていない。そこで今回は泡盛古酒の価格決定プロセスをファイナンス理論の観点から検証し、「泡盛古酒価格の統一理論」としてその完成を目指してみたい。まず、検証作業を進めるにあたり幾つかの仮定を置いてみる。

[仮定1] 
泡盛製造業者は、製造後の泡盛を新酒として発売するか、または数年間貯蔵した後に古酒として販売するかを、それぞれの行為から得られる利益を比較することで決定している。つまり、泡盛製造業者は新酒として販売するより、数年寝かして古酒として販売するほうがもうかると思えば、新酒の販売を控え古酒として貯蔵する。

[仮定2] 
消費者の新酒および古酒に対する需要は不変である。この前提のもとでは、新酒の供給減少は現時点における新酒価格の上昇をもたらす一方、一定時間経過後に古酒の供給が増加し、将来の古酒価格の下落を引き起こす。

[仮定3]
泡盛市場には、多数の泡盛製造業者が参加し、製造した泡盛を新酒として販売するか、または古酒を販売するかをそれぞれの思惑で決断する一方、泡盛市場は超過需要や超過供給を解消するよう効率的に機能し、泡盛市場では常に需要と供給が一致する販売価格が成立する。

ここからが本題である。この極めて経済合理的な価格決定プロセスが常に成り立つという前提のもとで、泡盛製造業者の行動は次の通り表される。

[変数]
泡盛の新酒販売価格:P0
古酒の貯蔵年数:t
t年間貯蔵した泡盛の古酒販売価格:Pt
泡盛の原価率:α (製造原価・一般管理費等を含む)
古酒を1年間貯蔵する費用:C

泡盛製造業者が製造直後の泡盛を新酒として販売する場合の利益は、[新酒販売価格:P0]-[原価:P0・α]で計算されP0-P0・αとなる。一方、製造業者は新酒をt年間貯蔵し古酒として販売することも可能である。その場合の利益は、[古酒販売価格:Pt]-[原価:P0・α]-[t年間の貯蔵費用:C・t]で計算され、Pt-P0・α-C・tとなる。先に示した[仮定1]から[仮定3]が成り立つ効率的な泡盛市場においては、新酒販売による利益と古酒販売による利益は一致することから、P0-P0・α=Pt-P0・α-C・tの関係が成り立つ。
これをPtについて解くと、
Pt=P0+C・t …① が得られる。

数式①は「古酒の販売価格は、新酒販売価格に貯蔵コストを加えて決定される」ことを表している。しかし、この数式①を縦軸が泡盛価格(P)、横軸が貯蔵年数(t)のグラフにプロットすると、古酒の販売価格は「P0を切片とする傾きCの直線」で表され、冒頭に説明した泡盛古酒の価格決定式 [泡盛古酒価格=p0×(1+0.13)^t]の指数関数式には似ても似つかない。その原因は数式①が割引現在価値の概念を導入していないことに起因していると思われる。そこで、数式①に割引現在価値の概念を導入したうえで、あらためて泡盛古酒の価格決定式について考察してみよう。

最初に割引現在価値の考え方を簡単に整理してみる。あなたが100円を銀行に預ける場面を想像してもらいたい。銀行に預けられた100円には毎年利息が付く。さらに翌年、その利息を元金に加えまた預金すれば、預金は複利計算で増えていく。「預金利率がプラスである限り、将来の100円 より 現在の100円の価値が大きい」という関係が成り立つ。この関係を数学的に表現すると、100円の預金を利回りr%でt年間運用すると、預金はt年後には100×(1+r)^tに増える。預金利回りrが2%の場合には、(1+r)は1.02となり、現在の100円は5年後には100円×1.02^5=110.4円となる。逆の視点に立ち、将来の100円を現在の価値、すなわち割引現在価値に引き直すと、100円÷1.02^5=90.5円が得られる。この関係を一般化すると、t年後におけるa円の割引現在価値はa× 1/(1+r)^tで表され、この時、rは割引率と呼ばれる。

本邦初、泡盛古酒の統一価格理論次に、この割引現在価値の概念を踏まえた上で、古酒の製造、貯蔵、販売から得られる現金の受け払い(キャッシュフロー)を整理してみる。左表における「-」符号は泡盛製造業者から現金(キャッシュ)が出て行くこと、逆に「+」符号は現金が業者に入ってくることを表している。泡盛製造業者が古酒販売によって得られる利益は、キッャシュフローの割引現在価値の合計に一致することから、次の式が得られる。

[古酒販売の利益]=[古酒販売業者のキャッシュフローの合計]
=Pt/(1+r)^t -P0・α -C/(1+r) -C/(1+r)^2 -C/(1+r)^3 … -C/(1+r)^(t-1) -C/(1+r)^t

さらに、泡盛市場が先に示した[仮定1]から[仮定3]を満たし効率的に機能すると仮定すると、製造した泡盛を新酒で販売する泡盛製造業者と古酒として販売する業者の利益は一致することから、次の関係が成り立つ。
P0 -P0・α=Pt/(1+r)^t -P0・α -C/(1+r) -C/(1+r)^2 -C/(1+r)^3 … -C/(1+r)^(t-1) -C/(1+r)^t

両辺の-P0・αを消去したうえで、両辺に(1+r)^tを掛けPtについて整理すると次式が得られる。
Pt=P0・(1+r)^t +[C・(1+r)^(t-1) +C・(1+r)^(t-2) +C・(1+r)^(t-3) … +C・(1+r) +C]

この時、[C・(1+r)^(t-1) +C・(1+r)^(t-2) +C・(1+r)^(t-3) … +C・(1+r) +C] の部分は、初項C、公比(1+r)の等比級数の和であることから、公式によりC・[(1+r)^t-1]/rと整理することができ、先の数式にこれを代入すると次式が得られる。
Pt=P0・(1+r)^t+ C・[(1+r)^t-1]/r …②
この数式②が、ファイナンス理論から導かれた泡盛古酒の新しい価格決定式である。ここに至るまでの退屈な数式展開作業で、既に気を失っている読者もおられると思うが、後しばらくご辛抱いただきたい。(笑)

気合を入れて数式②を眺めてみよう。ここで面白いことに気づく。第1項のPt=P0・(1+r)^tは、rに0.13を代入すると、2006年12月6日の記事で示した旧価格決定式「泡盛古酒価格=P0×(1+0.13)^t」そのものとなる。つまり新価格決定式は、「泡盛古酒の価格は年率r%の複利計算で算出される」という旧価格決定式を内包しているのだ。さらに、第2項C・[(1+r)^t-1]/rは、先に説明したとおり「毎年発生する貯蔵費用Cの割引現在価値の合計」を表している。つまり、数式②は割引現在価値の概念を導入したことにより一見複雑な算式に見えるが、基本的には数式①「Pt=P0+C・t」と同様に「古酒の販売価格は、新酒販売価格に貯蔵コストを加えて決定される」と解釈することができるのだ。同時に、旧価格決定式が「古酒の貯蔵費用を考慮していない」という構造的欠陥も明らかになったのであった。

ところで、2006年12月6日の記事には次の記述がある。
=====引用開始=====
はじき出された価格決定式は次の通りだ。
販売価格=1580.3×e^(0.1243×貯蔵年数)
決定係数=0.9936
指数近似曲線は、決定係数99%と極めてよく当てはまっており、この価格決定式に貯蔵年数を代入すれば、やまかねの販売価格の理論値が計算できる。果たして、貯蔵年数に35年を代入したところ122,500円が算出された。この値は「やまかね 1971」の販売価格150,000円にかなり近い。今回は限定100本の販売でありディスカウントは見込めないが、「やまかね 1971」が仮に量産されれば、2割引の12万円程度で販売される可能性は十分ありうる。つまり、理論価格との差額約3万円は限定販売のプレミアムと解釈でき、価格決定式の妥当性はかなり高いと判断できる。
=====引用終了=====

前回の分析では、価格決定式から算出した理論値は実際の販売価格を下回っていた。この差について、当時は限定販売のプレミアムと結論づけていたが、これまでの分析により、その解釈が間違いであることが明らかになった。新理論に基づけば理論値と販売価格の差額27,500円は、毎年発生する貯蔵費用の割引現在価値の合計と見なすべきであったのだ。ここでこの関係を明らかにするために、古酒の1年間の貯蔵費用:Cについて、C=P0・β(βは定数)の関係が成り立つという新たな仮定を導入したい。その上で、理論値と販売価格の価格差27,000円の推計の際に用いられた変数(パラメーター)、P0=1,580.3、t=35、r=0.13を数式②の第2項、P0・β・[(1+r)^t-1]/rに代入すると、1580.3・β・[(1+0.13)^t-1]/0.13=27,500が成り立つ。これをβについて解くとβ=0.0318が得られる。つまり、C=P0・β(βは定数)という関係により、古酒の年間の貯蔵費用は新酒販売価格のおおよそ3%と推計されたのであった。

ここに至って、マゴナ研究室としては、2006年12月6日の記事で紹介した泡盛古酒の価格決定式を次のとおり改定したい。
(改定前) 泡盛古酒価格=P0×(1+0.13)^t
(改定後) 泡盛古酒価格=P0×(1+0.13)^t+P0×0.031×[(1+0.13)^t-1]/0.13 …③

本邦初、泡盛古酒の統一価格理論確認のために、P0=1530としたうえで、縦軸を泡盛価格(Pt)、横軸を貯蔵年数(t)とするグラフに、改訂後の泡盛古酒の価格決定式から得られた古酒価格をプロットしてみよう。この時、数式③の第1項 P0・(1+0.13)^tは赤色の曲線で表示され、第2項のP0・0.031・[(1+0.13)^t-1]/0.13は青色の曲線で表される。合計は黒色の曲線で表され泡盛古酒価格を示す。繰り返しになるが、泡盛古酒価格は、新酒販売価格のt年後における価値を示す青色の曲線と、毎年発生する貯蔵費用を表す赤色の曲線との和、すなわち黒色の曲線として表されるのである。

最後に、これまでコメントを避けてきた割引率、r=0.13について考察を加える。ファイナンス理論によると、泡盛製造業に事業失敗のリスクが無ければ、rは国債の金利と同じになるというのが常識である。しかし、国と違い泡盛製造業は固有の事業リスクを抱えている。ファイナンス理論においては、事業リスクを勘案した割引率を算出するにはCAPM(キャップエム:Capital Asset Pricing Model:資本資産価格形成モデル)という考え方があるが、この説明にはさらに数ページを要することから、以下では、ザックリと割引率rは泡盛製造業の標準的な営業利益率に近似するという仮定をおく。

本邦初、泡盛古酒の統一価格理論泡盛製造業の営業利益率をネットで検索したところ、「泡盛業界の現状と課題、展望」(りゅうぎん調査、平成18年4月)に、1999年度から2001年度にかけての泡盛売上高、営業利益のデータ(左表参照)が掲載されている。このデータから営業利益率を算出すると、1999年度0.10、2000年度0.11、2001年度0.11となる。これらの値は推計値の0.13にかなり近い値であり、0.02程度の差異は誤差の範囲内と認識できる。当研究室としては理論値0.13はおおむね真実の姿を反映していると判定したい。

ここに至って、ようやく今回の「泡盛古酒の統一価格理論」の証明は終了である。残念ながら貯蔵費用のβに関しては、関連データの入手が困難なことから、先に示した「古酒の貯蔵費用は新酒販売価格のおおよそ3%と推計された」という分析結果は、あくまで仮説の域を超えていない。しかし、マゴナ研究室としては、真実の姿は仮説と大差ないと信じている。冒頭「統一理論の解明が近づきつつある」などとぶち上げながら、最後の証明作業が完了していないことに対し、「またかよ~」という批判の声も聞こえないわけではないが、泡盛古酒価格について、これほど真剣に取り組んだ研究は本邦初であり、その努力に免じて、読者の皆さんにはぜひともご容赦いただきたいと思うのであった。(笑)

【閑話休題】
今回の記事では「分かりやすさを第一に抽象的な表現」を心がけた。一般には「分かりやすく具体的に説明する」というのが普通だと思われるが、些細なことに囚われて物事を複雑に理解するよりも、枝葉末節をそぎ落とし単純化したほうが本質の理解を助ける場合も多い。今回がまさにそれに当てはまる。しかし、この分析姿勢にも留意すべき点がある。そのことを理解してもらうために、筆者の大好きな次の小話を紹介しよう。

「学者たちの乗った船が暴風にあって無人島に漂着した。缶詰の食料はたくさんあるのだが、あいにく缶切りがすべて無くなってしまっていた。そこで、各分野の学者が、それぞれの専門知識を利用して、缶切りなしで缶詰を開けるという課題に挑戦することになった。まず、科学者が、海水中の塩分で缶を腐食させる方法を試みたが、失敗した。つぎに、物理学者が太陽光線の利用を試みたが、これもうまくいかなかった。最後に経済学者が登場した。彼の提案は、次の言葉ではじまった。『ここに缶切りがあるものと仮定しよう』...」
(経済学の散歩道 野口悠紀夫(1985) 日本評論社 より引用)

すべての抽象化された理論は仮定から始まる。裏を返せば、仮定が適切な場合のみ、理論は真実に到達し「分かりやすく抽象的に表現する」ことを可能にする。さて、今回の記事における数々の仮定が適切なものかどうかは、ぜひとも皆さん自身で判断していただきたいところである。(笑)


  • LINEで送る

同じカテゴリー(ドリンク)の記事
究極の二日酔い対策
究極の二日酔い対策(2006-03-18 00:00)


Posted by magona Laboratory at 00:00 │ドリンク