電子書籍は不動産屋の夢をみるか ? ①

magona Laboratory

2010年06月06日 00:00

マゴナ研究室はご近所でも珍しい平屋建てである。広大な敷地で平屋建てなら自慢になるが、残念ながら敷地も小さいうえに建坪20坪そこらで、高級住宅街にひっそりと佇む吾妻屋というのがピッタリの表現である。そんな狭小住宅にあっても、本だけは人並み以上に収集している。現時点、推定2,000冊の本が、ただでも狭い生活空間を侵略しており、家族からはひんしゅくの嵐だ。写真は乱雑な一部本棚の様子。

我が家の財務大臣からは「どうせ読まないなら、捨てるか、BOOK OFFに売却したら」との強い要請があるが、残念ながら、子供の頃から「本はどんどん読みなさい」という教育を受けてきた筆者は、一度購入した本を手放すことができない。結果、本棚には30数年に亘って収集してきたシミだらけの本が溢れかえっている。実は、数年前に一度だけ、財務大臣からの強い圧力に堪えきれず、本棚一つ分の本を廃棄したことがあるが、今でも、そのことについては後悔することしきりだ。

そんな中、巷ではAppleのipadが発売された。筆者はipadを見た瞬間、このマシンなら本棚の書籍を一掃できるかもしれないという予感がふつふつと沸き上がってきた。マゴナ研究室は2008年12月にScan Snap S510 (富士通PFU製、左写真)という連続給紙型の高速両面スキャナーを入手し、主に名刺や年賀状、資料の整理などに活用してきた。当然、Scan Snapを使って本をPDFデータに変換すれば、手作りの電子書籍となることは認識していたが、どこにでも持ち運べる本のアドバンテージが完全に失われることから、蔵書の電子書籍化、すなわちPDF化は全く考えていなかったのである。

そこにipadの襲来である。これなら、PDFデータに変換した電子書籍をまるで本のように、どこででも読むことが可能ではないか。はたして、ネットで「電子書籍 ipad Scan Snap」と検索すると、続々と、Scan Snap を使って電子書籍を制作している猛者達がヒットする。おまけに「i文庫HD」という電子書籍リーダーを使えば、PDFデータをまるで本をめくる感覚で扱うことが可能になる。ここまでくれば、もはや予感は確信に変わり、蔵書の全てをPDFに変換しなければという衝動を抑えることはできない。

2チャンネルでは、本をPDFデータに変換し電子書籍化する作業のことを「自炊」と呼び、多くのノウハウが語られている。詳しくはネットで検索していただくとして、この「自炊」を効率的に進めるのに、どうしても必要となるのが、本をバラす時に使う裁断機である。PLUSのPK-513Lという手動裁断機が定番だ。大きさは40cm×40cm×17cm、重量12Kgと巨大で価格は3万円以上する。当初はカッターナイフでの裁断を試みたが、カッターを持つ手が痛くなるうえに、かなり時間を要することが判明した。2,000冊を処理するためには、裁断機を購入しなければ電子化作業は始まらない。そこで、財務大臣に、将来的には本棚がなくなり家が広く使えるとか、「父の日」&「夏のボーナス」のプレゼントではどうかということで説得し、どうにかAmazonの購入ボタンにこぎつけたのである。写真は届いたばかりのPK-513L。

道具は揃った。土日を使って、ネット情報を参考にスキャンの設定をいろいろ変えてみたり、作業手順を工夫することで、数時間後には200ページ程度の書籍であれば、10分程度でPDFに変換できるようになった。以下に、作業のツボやScanSnap Managerの設定を備忘録的に記録しておく。写真は作業場の様子。

1.裁断のコツは「裁断機 PK-513Lで本が「台形」にならずに裁断する方法」のページを参照。

2.「画質の選択(スキャン解像度)」は、漫画や雑誌はファイン。通常の活字主体の本はスーパーファインという結論になった。マゴナ研究室には漫画がほとんどなく、また挿絵の綺麗さにも頓着しないタイプなので、ファイル容量、文字のつぶれ具合等を総合的に勘案して、この結論となった。

3.「カラーモードの設定」は、雑誌や漫画はカラーで、活字主体の本は白黒2値で読み込む。ネット上には全てをカラー処理とするものが多数だが、マゴナ研究室の蔵書には古本が多く、シミを消す意味でも白黒設定がベターという結論に至った。また、ファイル容量を節約できるというのも大きな魅力である。

4.スキャンの読み取り方向は、横置きとすることで読み取り時間の短縮を図る。ただし、この場合は「原稿サイズ」を予め「カスタマイズ」する必要がある。「サイズ自動検出」を使うと、PDFを見開きページで閲覧した場合、左右のページサイズが微妙に異なってしまうので、多少面倒くさいが、書籍サイズを物差しで計測したうえで設定している。この時、実際の計測値より1~2mm小さく設定するのがコツである。

5.原稿をスキャナートレイにセットする前に絶対に忘れてならないのが、裁断後の本を扇開きにして、糊でつながっているページがないかを確認する作業だ。わずかな部分でも糊が残っているとジャムりが発生し、再読み取りなどで時間を大きくロスしてしまうので、この作業だけは疎かにしてはならない。

6.読み取りは通常の活字本の場合、3段階に分けて実施する。最初に本文部分を白黒で読み込む。このとき「読み取りモードのオプション」は「文字をくっきりします」「文字の傾きを自動的に補正します」にチェックを入れる。

7.続いて、表紙カバー、裏表カバーをカラーで読み込むが、このときの「読み取りモードのオプション」は「文字の傾きを自動的に補正します」のチックを外す。そうしないと、画像が妙に傾く症状が多発する。

8.最後に、アクロバットを使って、本文部分を全90°回転、偶数ページを180°回転し、天地をそろえる。続いて、表紙カバー、裏表紙カバーを本文の前後に挿入してできあがりである。

9.アクロバットでの編集作業、PK-513Lによる裁断作業は、Scan Snapが自動スキャンしている間に同時並行的に進めることが可能である。慣れてくれば、普通の単行本、新書本、文庫本であれば、概ね10分で1冊のPDF化が完了する。

【閑話休題】
土日の作業で、おおよそ90冊の電子書籍ができあがった。作業後には左写真のように多量の紙ゴミが排出される。このゴミ捨て方にも一工夫が必要と思われるが、それはさておき、作業前にはあまり意識していなかったことに気づいた。わずか90冊の電子書籍化作業で、10数時間の作業が必要となったのだ。テレビつけながらのナガラ作業ではあるが、拘束時間もさることながら、身体(特に腰)への負担も大きい。土日をフルに使っても、電子化できたのは蔵書のわずか5%にも満たない。こうなってくると、果たしてこの作業は完結するのか、はたまた割に合う作業なのか、という疑問がわき上がってくる。率直に言って、全ての蔵書を電子書籍化するのは、かなり厳しい道のりと言わざるを得ない。しかし、単に時間がかかるというだけで、電子書籍化作業、すなわち「自炊」の意義を結論づけるのは全くもって面白くない。評価する以上はそれなりの理屈が必要である。次回はマゴナ研究室の分析力を総動員し、電子書籍化作業の経済性についてレポートしてみたい。乞うご期待である。(笑)


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