2006年10月18日 00:00
では、技術力と華やかさを同時に達成するにはどうしたらよいのか。技術力の向上はトレーニングと経験の積み重ねで実現することができる。しかし、華やかさの向上は難しい。一般に外見的な美しさは先天的要素に大きく左右され、後天的に身につけるには、恐らく美容整形以外に方法はない。ただし、代替的な改善策が一つだけある。それは「若さ」だ。若さなら各人平等に発揮の機会が与えられており、不足する外見的美しさのかなりの部分をカバーすることが可能である。このことから、経験則として「ゴルフは早い年齢から始めるにしくはなし」ということが明らかになる。
社団法人日本女子プロゴルフ協会(LPGA)では、プロテストの受験資格を「プロテスト(最終)実施年の4月1日現在、満18歳以上の女子(出生時)」としている。つまり18歳までにプロ水準の技術力を獲得するには、英才教育の徹底が合理的な選択となる。事実、宮里藍は4歳からゴルフを始め、横峯さくら、諸見里しのぶは9歳からである。しかし、この限定的な事実だけで、英才教育の効果を評価してよいのであろうか。この素直な疑問に答えるために、マゴナ研究室では、英才教育の有効性について、統計手法に基づく実証分析を試みた。もし、この分析結果が日本女子プロゴルフ協会の知るところとなれば、樋口久子会長から座布団三枚相当の表彰状が授与されること間違いなしである。(笑)
それでは、早速、分析開始だ。分析データはLPGAのホームページの会員紹介(Member introduction)から入手し、2005年の賞金ランキング100位以内の選手を分析対象とする。2006年ではなく2005年を分析対象としたのは、2006年は宮里藍、諸見里しのぶが主戦場をアメリカに移しており、2005年のデータが分析の趣旨に沿っていると判断したからである。分析手法には最もポピュラーな最小二乗法による回帰分析を用いる。データの入力から分析に至る約3時間の成果は次の通りである。
[変数]
Score:平均ストローク(2005年のLPGAトーナメント成績)
Age:年齢(2005年時点)
Start:ゴルフを初めた年齢
BMI: Body Mass Index(肥満度指標)BMI=体重(kg)÷身長(m)^2
Height:身長(cm)
Weight:体重(kg)
※データ一覧はこちらで確認できる。
上記変数が、LPGAの会員紹介から得られる数値データの全てである。恐らく、身長や体重には若干(かなり?)の脚色がなされている可能性は高いが、バイアスのベクトルは同一であり、分析結果には大きな影響を与えないと思われる(笑)。なお、実際の分析ではデータが不完全な5名を除いた95名を分析対象としている。
[変数の平均値]
Score(ストローク)の平均:73.6
Age(年齢)の平均:31歳
Start(ゴルフ開始年齢)の平均:15歳
BMIの平均:22.6
Height(身長)の平均:163cm
Weight(体重)の平均:60kg
[変数間の相関係数]
[回帰分析]
Score=72.381+0.0528*Age+0.0719*Start-0.0635*BMI
(59.61) (2.69) (2.30) (-1.21)
決定係数 0.249663
注:( )内はt値。
上の方程式が分析の最終結果である。それによると、年齢が一歳増加するとスコアは0.0528増加し、ゴルフの開始年齢が一歳増加するとスコアは0.0719増加する。つまり、年齢の増加とともにスコアは悪くなり、ゴルフを始める年齢が低いほどスコアは良くなるというのが結論である。これは、経験的に得られる法則と一致する。
なお、方程式の下の括弧内に記載される数値はt(ティー)値と呼ばれるもので、サンプル数にもよるが、値が2を上回れば分析結果がおおよそ95%以上の確率で確かであることを示している。AgeやStartの2.69、2.30の値は、ほぼ99%以上の確率でスコアに影響を与えていることを示している。一方、BMI(肥満度指標)のt値は1.21であり、スコアへの影響を断定できるレベルではない。決定係数の0.25は、年齢やゴルフ開始年齢、BMIはスコアに対して25%の影響力があり、その他の要因が75%の影響力を持っていること示している。
マゴナ研究室の分析により、ゴルフ英才教育の有効性は統計的に証明された。しかし、もう一つの恐るべき事実も明らかになってしまった。残酷にも、時間の経過は全人類平等に訪れる。英才教育により圧倒的なアドバンテージを得た宮里藍や横峰さくら、諸見里しのぶにしても例外ではない。今から15年もすれば、彼女らも立派なオバサンに成長し、同時にスコアは0.78悪化する。これが哀しい現実だ。
しかし、ここが分岐点でもある。もし、彼女らがこのディスアドバンテージを補うために、不確かなスコアメイク策であるBMIの増加に頼れば、本人およびゴルフ界にとって不幸な結果となるであろう。BMI、つまり体重の増加はスコアの改善にはある程度の効果はあるかも知れないが、「華やかさ」にとっては大きなマイナスとなるからだ。個々のプレーヤーがスコア改善に向け努力しても、その方向性を間違うと、女子プロゴルフ界にとって大きなマイナスになることを世のオジサンの代表として、日本女子プロゴルフ協会に警告しておきたい。
所詮、年齢やゴルフ開始年齢はスコアに対して25%程度の影響力しかないのだ。新世代プレーヤーの皆さんには、是非ともシェイプアップに心がけつつ、日々の精進を続けることを切に祈りたい。